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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)710号 判決

控訴人 畠山淳一

右訴訟代理人弁護士 関根俊太郎

同 二宮充子

被控訴人 不二サッシ販売株式会社

右訴訟代理人弁護士 江橋英五郎

同 鈴木宏

同 結城康郎

主文

原判決を取消す。

本件を東京地方裁判所に差戻す。

事実

控訴代理人は主文同旨および「訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠の関係は左のとおり付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、それをここに引用する。

(控訴人の主張)

一、本件配当手続は、第三債務者から事情届が東京地方裁判所に提出され、同裁判所が配当手続を開始したのである。控訴人、被控訴人が配当要求をしたものではない。

二、(1)配当異議の訴は「原告の債権に対して原告の主張どおりの配当がなされること、すなわち被告の債権に対して全部または一部配当がなされないこと」を求めるためのものであって、その原因は、異議の申立を理由あらしめる全ての事実であると考えるべきである。そして、異議の理由は、債権の存否、優劣や配当率などに関するもののみならず、いやしくも配当表に変更をきたすものなればよく、配当異議の訴の原告の請求の趣旨を維持するに足るすべての事実関係、法律関係を含むものである。したがって配当異議の訴の被告の債権の存在を否認すること、その債権の順位、数額を争うことなどの外、配当異議の訴の被告の差押自体または配当要求自体の違法を主張することも配当異議の訴の理由となると考えるべきである。

(2)また、原判決が言うように配当異議の訴が配当要求の基礎となる債権の実体上の存否を争うものであるとしても、配当要求の基礎となる債権が存在しない場合にこれを配当表に記載した場合と、本件のように配当要求の効力のない債権者を効力あるものとして取り扱ったこととは、その実体からみてもほとんど同じであって、この両者の間には、前者を配当異議の訴、後者を執行方法に関する異議と区別しなければならない程の差異はない。

(被控訴人の主張)

一、控訴人の主張一の事実は認める。

二、控訴人の主張二は争う。

(1)配当異議の訴は、配当に与るべき債権者間において、配当要求の基礎となる債権の実体法上の存否を争うための制度すなわち実体法上の権利に基づき配当表の変更を求むべき訴訟上の権利を主張するための制度であって、配当を受くべき債権者が形式上正当に作成せられた配当表に対してなす不服申立の方法である。

(2)配当手続において形式上正当に作成された配当表に対して配当要求の基礎となる債権の実体上の存否を争うのが配当異議の訴であり、執行又は執行行為の形式的な手続上の瑕疵を理由とする場合には執行方法に関する異議をもって争うことが認められている点から考えると、配当要求の基礎となる債権が存在しない場合にこれを配当表に記載した場合はまさしく前者に該当するものであるが、配当要求の効力のない債権者を効力あるものとして取扱ったことは後者に該当するものであって明らかに両者は区別されなければならない。

さらに控訴人の主張によれば、本来執行裁判所が判断すべき事由についての判断の当否を、同一審級の他の裁判所が審査する結果となって不合理である。よって控訴人の控訴理由はすべて理由がない。(当審におけるあらたな証拠)〈省略〉

理由

一、配当異議の訴は、配当表の実質内容に対する不服申立の制度であり、配当表変更の効力を生ずる判決を求める形成の訴である。そして、配当異議の訴の原告は請求を理由あらしめる事由として、右訴の被告(以下被告という。)の債権が配当表の記載通りに存在しないことのほかに、被告の差押(仮差押をふくむ。以下同じ。)または配当要求が無効であることをも主張することができる(配当要求債権者の債権の存在とその差押あるいは配当要求の有効であることとは配当受領権の実質的発生要件であり、配当の実質的有効要件でもあると解すべきである。)。したがって、配当要求債権者を甲、乙両名とする配当表が作成された場合において、乙の差押または配当要求が無効であるときは、甲は配当期日に右無効を主張して配当表中の乙の配当に関する部分につき異議を申立て、ついで乙を被告とする配当異議の訴を提起し、配当表中の乙に対する配当額を取消して甲へ配当すべき旨の判決を求めることができるものと解すべきものである。

ところで、控訴人の本訴請求の要旨は、被控訴人主張の仮差押は無効であるから被控訴人は配当要求債権者として配当に加わり得ないのに、配当裁判所が被控訴人を配当要求債権者と認めて配当手続に加え、本件配当表を作成したのは違法であるから本件配当表中の被控訴人に対する配当額を取消し、その金額を控訴人に配当する旨の判決を求めるというに帰するが、適法な配当異議の訴というべきであり、他に本件全資料を検討するも本件訴を不適法とする事由は存しない

叙上の判断説示と異なる見解に立ち、控訴人の所論理由は配当異議の訴の理由とはなり得ないものであって、控訴人は本件配当に対し、所論の理由に基づき執行方法異議の方法によってのみ不服を申立てることができるとし、控訴人の本件訴を却下した原判決の判断は採用できない。

二、よって、本件訴を却下した原判決は不当であるから、民事訴訟法三八六条、三八八条に則り、これを取消し、本件を東京地方裁判所に差戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野宏 裁判官 後藤静思 日野原昌)

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